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「あ、俺、風呂入るんじゃったわ」
わかっていながら意地悪く言う村瀬さんに、
「そんなの待てないよ。お願い。このまま……」
ふふっと満足そうに息を溢した村瀬さんが、俺の裸の胸の小さな突起を口に含もうとしたときだった。
ピンポーン。
ふたりしてピタリと動きを止めた。俺の上で息を殺している村瀬さんを見上げていると、また、
ピンポーン。
「……カズト。なにか宅配頼んだ?」
「ううん、頼んでない。村瀬さんは?」
「いや、俺も。なんじゃろ、こんな時間に」
離れていこうとする逞しい体を、俺は咄嗟に村瀬さんの首に廻した腕に力を込めて引き寄せた。
「カズト?」
「……宅配だったら明日、再配達してもらえばいいよ。だから、ねえ……」
笑った村瀬さんの顔は俺の申し出に賛同した表情だ。もう一度鳴ったチャイムを無視して、洗ったばかりの俺の前髪を優しく掻き分けると、村瀬さんの唇が近づいてきて――。
ピンポーン。またチャイムが鳴る。
ピンポーン。
ピンポン、ピンポン、ピンポンピンポン。
ピポピポピポピポピポ……。
「あーっ! うるさいっ!」
がばっ、と起き上がった村瀬さんはどしどしと足音を立てて玄関へと向かった。
俺はというと、中途半端に熱を上げられたままでソファの上に仰向けに寝転んでいた。確かにリビングの時計を見ると午後十時が近くなっている。こんな時間に一体、誰が訪ねて来たんだろう。
せっかく上がった熱を下げないように、俺がさっきまでの村瀬さんの愛撫を頭の中で再現していると、「はあ? ちょっと待てって」と村瀬さんの焦った声がして急にガヤガヤと廊下のほうが騒がしくなった。
「だから無理じゃって。うわ! 開けんな、そこっ!」
「なに言うとるんよ、寿明。ちゃんと連絡したでしょうが。ねえ、お父さん」
――おとうさん?
リビングの扉の向こうの様子を不審に思って体を起こしたのと同時に、ガチャリと扉が開いた。扉の向こうから入ってきた服装は村瀬さんの物じゃない。
しばらく体をフリーズさせて様子を窺っていると、もうひとり、明らかに女性と思われるニンゲンが続けて入ってきて、そしてひとこと俺に言った。
「……。ボク、誰ね?」
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