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完全に寝ぼけている山内の拘束を解こうと、ぼかすかと殴った。志岐さんと違って芸能人でも有名人でもないから、もう遠慮なしだ。イテッという山内の言葉がはっきりとしてきてようやく目が覚めたのか、
「な、なんじゃ小泉。痛い。殴るのはやめえ」
「お前こそ、ひとを押し倒してなんなんだよっ。それにこの酒の空き缶の山はどういうことだ!」
プリプリと怒った俺のセリフを引き継いで、その声は静かに部屋のなかに響いた。
「……それはわたしも詳しゅう聞きたいわ。カズトくん。それにそこの彼にも」
ヒュウッと背中から冷たい空気が流れてきた。目の前の山内が上体を起こしたまま、俺の後ろを見つめてかちんと固まっている。これは紛れもない、怒り頂点の明里さんが醸し出す空気……。
恐る恐る肩ごしに振り返る。そこには浅葱色の着物を着て腕を組んで仁王立ちする明里さんと、その後ろで諦めの空気を醸し出している志岐さんがいた。
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