怪奇青春恋愛小説 羅生門

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 ある日の夕方の事だ。俺は羅生門の下で雨がやむのを待っていた。  もっとも、こんな山に囲まれた町じゃ、日の光も届かず空は真っ黒、太陽なんて昨日から見ていない。生憎と時計も持っていないし、なによりも、どうやら俺はここで寝入ってしまっていたらしい。夢見が悪かったみたいで頭がぼうっとする。だから、今が本当に夕方かなんて実のところ分からない。何となく夕方のような気がするというだけだ。  ついでに言えば、今雨宿りをしているこの場所も、本当は羅生門なんて大層な名前じゃない。十年も前に国からの助成金で建てられた町おこしの為の建物だ。今ではすっかり朽ち果ててしまった二階建てのアーチ状の建物。二階部分では、かつてレストランが営業していたらしく、一時期は随分と流行っていたようだが、今じゃ中も外も朽ち果てて、 『○×町にようこそ』  と、掲げられた看板はカラスの糞にまみれている。  その朽ち果てた姿が、昔の羅生門って映画に出てくる門とそっくりだから町の人間がそう呼んでいるだけだ。俺に言わせてみれば、その姿はこの町を象徴しているように見えるが……     
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