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運も才能もなかった。
「そうだよ。あいつの本に書いてある通りだ」
オレが言うと、むかいちは唇を引き結んだ。ぎゅっと音がしそうなほど。
「志崎さん」
むかいちは俺の名を呼び、息を一つ、つくと、
「もう1度言います。相方にしてください」
と言った。
恋焦がれる目。
漫才に、そして賞レースに恋をしている目。
多分、昔、漫才賞レースに出ていた頃は、オレもこんな目をしてたであろう。
今でもこんなに執着して、忘れられないでいるということは。
「本気か。本気なのか、むかいち」
オレの問いに、むかいちは、
「志崎さん。夢を叶えるにはどうしたらいいと思いますか?」
と、逆に問いかけてきた。
「夢を叶えるには……?」
「夢が叶うまで夢を追うことです」
むかいちは、単純でしょ? と笑った。
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