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薫りの元はここからだ、という確信と共に歩みを止めた。
一際強く薫りが漂ってくるこの場所は、学園の隅に位置する中庭である。
入ったことは一度も無かったが、入学式後の学園内の説明で中には様々な植物が管理され、花が咲き乱れているということを言っていた。
恐る恐る温室の扉を開くとみずみずしい植物の香りに包まれた。陽だまりに包まれているような温かさに色とりどりに咲き乱れる花に身も心も癒されているように感じた。
その中でも俺を誘う薫りは温室の中央から漂ってきていることがわかった。
温室の中央にいるのは同じ制服を身に纏った学生が一人。
どうして彼から漂ってきているのかはわからないが、この薫りは彼からだという確信はあった。
陽の光を浴びて煌めく、柔らかな白銀の髪。憂いを帯びた横顔に、花を愛でる指先はスラリとしていて陶器のように白い。
薫りにとらわれているように、彼の全てに目が離せなくなっていた。
ようやく温室に自分以外の人の気配を感じたのか、花から手を離し視線をこちらに向け俺に告げた。
「君が僕の”番”?」
告げられた言葉に驚き固まっていると、彼は近づきスッと先ほど花を愛でていたように優しく咲希の頬を撫でた。
「うーん、固まっちゃてるのかな? 君、大丈夫?」
彼は心配そうに瞳を覗き込むように顔を近づける。
咲希はこんなにも綺麗な顔を近づけられて、内心あわあわと動揺しつつ思考回路が混乱していた。相手が男であっても、思わず赤面してしまった。
「顔がどんどん赤くなってきたね。もともと顔も可愛いけど、そんな反応されちゃうとますます可愛く感じちゃうよね」
彼は楽しそうにクスクスと笑っていた。咲希はようやく落ち着きを取り戻し、自分の頬に添えらえている手を掴んだ。
「可愛いっていうのやめてください……あと、俺はあなたの番じゃないです。」
「あれ? そうなの、絶対に”運命の番”だと思ったんだけどな」
「だって俺はβですから、番を作ることも誰かの番になることもあり得ません」
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