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ぎくり、として冷や汗が出た。何故だろうか、羞恥以外の理由で逃げ出したくなって、手をぎゅうっと握りしめた。
「きっと、本当の気持ちはそんなものじゃない。面倒臭いだけの一色なんて、有り得ない。自分がどんな風に思っているのか、ちゃんと見つめた方が良いよ」
「そんな、こと」
「本当に? 悔しくなかった? 腹が立たなかった? 悲しくなかった?」
店員さんは私の冷えた手を握りしめて、心配気にゆっくりと聞く。
その穏やかな声に、私の内側に沈殿していた感情が釣り上げられたように、たちまち浮上してきた。
本当は、悔しかった。私の方が頑張ったのにって、色んな人に言いたかった。
それから、ちょっとイライラした。努力の分、ちゃんと賢くなればいいのにって理不尽に怒った。
それから、それから、本当は――。
「かなしかった、です、すごく……!」
ぼろ、とまた涙が新しく生まれる。目を逸らしていた感情が一気に私に襲いかかった。
ずっと悲しくて悲しくて、でも無理やり我慢して、面倒臭いって、自分を誤魔化していた。
それは、意地だった。認めたくなかった。自分の実力がそこまでだってこと。あんなにした努力が全然、間に合ってないこと。
お母さんの期待に応えられないことも、塾の先生に発表されちゃった進路を変えるのも苦しかった。
「そっか。だったら俺はこう言える。
――お疲れ様。そんな風になるまで、よく、頑張ったね」
伸ばされた筋肉質な腕が、私の体を囲う。頬が硬い何かに当たって――それが、店員さんの胸板だと分かって、目を見開いた。
腕を突っ張って逃げようとするより早く、店員さんの手が頭に乗った。優しく、ゆっくり髪に差し込まれた手が、私の頭を撫でてくれていた。
「君は頑張った。だから諦めるのは難しいし、勿論、続けたければそうすべきだ。
全部、君が決めていい。君がしたいように、出来る範囲でまた頑張ればいい」
店員さんの心臓の音が聞こえる。どくどくと大きめの音で、すごく頻繁に鳴っていた。
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