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言葉がそこで終わる。泣いたせいか、ちょっとぼんやり気味。言いたい言葉が纏まらない。
そこで不意に浮かんだ疑問は、どうして自分の名前を知っているんだろう? だった。
「私の名前、知ってたんですね」
「……実は、前から柚希ちゃんのこと、気になって、て」
気まずげに逸らされた視線は店内を一通りさ迷って、最後にカレーパンに行き着く。
「柚希ちゃん、いつもカレーパン買ってくだろ? あれ作るの、俺の担当でさ。それで、なんというか、顔覚えちゃったんだよな」
一度私の元に戻った視線は、またすぐに逸らされて、トレーの上の、食べかけのカレーパンに動いた。
恥ずかしすぎる。毎回カレーパン買う人って私以外にも居ると思うけど、そういう風に印象付けて覚えられるのは、ちょっと所か、かなり恥ずかしかった。
それから、少し申し訳なく思った。
ついさっき無我夢中で、味も分からずに口に運んだパンは、矢代さんが作ったパンだったらしい。
ああ、申し訳ないことをしてしまった。もっと味わって食べるべきだったなあ、と後悔がじわりと滲み出してきた。
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