パン、美味しいなぁ

9/12
前へ
/16ページ
次へ
 「友達と来た時、柚希ちゃんって呼ばれてたのが、耳に残っちゃってて……馴れ馴れしくごめん。  ……でも、お陰で最近元気ないな、って気づけてよかった。柚希ちゃんのこと、少しは励ませた……よな?」  頬を軽くかいて、矢代さんは私に伺うように首を傾げた。  勿論私は即座に、何度も頭を縦に振る。  「すごく励まされました! 上手く言えないけど……矢代さんのお陰で、私また、頑張れそうです!」  ぐっと、拳を作って微笑むと、矢代さんもやっと照れるのを止めて、同じように笑い返してくれた。  「そっか、助けになれてよかったよ」  「はい、本当にありがとうございました!  パンも、あったかくて美味しかったです。あと……抱き締めてくれて、なんか、ほっとしちゃいました。人肌って、落ち着くんですね」  へへへ、と今度は私が照れて俯くと、矢代さんは口元を手で覆って、何故か天井を仰いだ。  「矢代さん?」  「な、んでもない。柚希ちゃん、それってちょっと、ズルイよ。……おいおい可愛すぎんだろ」  俺、コーヒー入れ直してくる、と矢代さんは席を立った。  後ろから見ると、彼の耳は真っ赤になっていた。  釣られて私も、自分の頬が紅潮するのが分かった。  だって、年下の子供を慰めるつもりでしてくれたんだと思ってたのに、あんな風に照れるのって、まさか……。  そう考えながらさっきの抱擁を思い出すと、顔から火が出るほど恥ずかしさが増して、爆発するかと思った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加