パン、美味しいなぁ

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 「あ、ありがとうございます……」  コップに口をつけてコーヒーを飲み込むが、普段どんな飲み方をしていたのか思い出せない。口が変な形をしているかもしれないとドキドキした。  「……パ、パン、食べますね?」  「あ、うん、ど、どうぞ」  矢代さんも心做しか挙動不審だ。私は時間を稼ぐためにも、カレーパンを無駄にしっかりと掴み、かぶりつく。  だけど、元々半分ほど食べ終えてしまっていたから、カレーパンはあっという間になくなってしまった。  居心地が良いはずなのに、同時に緊張感をも含んだ空間で、私たちは視線を泳がせまくる。  やがて、私にしっかり目を向けた矢代さんは決意したように口を開いた。  「外が、暗くなってきたみたいだ。柚希ちゃん、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな」  「そ、そうですね、暗くなってますね」  言葉に背中を押されたように、さっきまで固まっていた体がたちまち動き出す。私は財布やら残りのパンやらをカバンに入れて、身支度を整える。  矢代さんはそれを、机に肘をついて……私の気のせいかもしれないけど、寂しそうな顔で見ていた。  「あの、ありがとう、ございました。本当に」  店の入口に立つと、外の冷たい空気が薄らと感じられた。  それは寂しさの寒さと似ていた。
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