あんまり、覚えてない

2/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 店に入ると、思い描いていた通り暖かい空気が私を迎えてくれた。  「いらっしゃいませ」  お客さんは私だけで、店員さんとモロに目が合ってしまった。  小さくお辞儀をすると、彼の接客用の微笑みが深まった。  何だか照れくさくて、視線をそらして入口近くのトレーとトングを取る。  いつもは人気なのに、自分だけだなんて珍しい。そう思って時計を確認すると、もうすぐ閉店時間だった。  随分長い間公園に居たみたいだ。全く覚えていないが、そんなにも長いこと何をしていたのだっけ。  ちらりと頭に過ぎった5番目のアルファベットを、ため息で吐き出して、カチカチとトングを鳴らす。  今の私はハンターだ。好きなものを、好きなように取る。明日の朝の分まで、食べられるだけ選び放題なのだ。  「何にしようかな」  わざと声に出して、まずはクリームパン。  他には、と視線を巡らせると、目当てのメロンパンの横に、新商品と煽りのついたトレーがあった。勿論私は――パンハンターは、逃したりしない。  メロンパンと一緒にそれもトングで掴む。  これで、三個だ。  でも、と考える。一つぐらい、しょっぱいパンがあってもいいのではないか、と。     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!