あんまり、覚えてない

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 普段は、一食につき二個でお腹いっぱいになる。朝は一個でいいし、もう十分なのだが……。  体重のことを考えて二の足を踏んでしまうが、脳裏にまた『E』が浮かんでしまっては、もうダメだった。  何故、我慢なぞせねばならんのだ! 面倒臭い!!  トングを開き、サクサクの衣のついたカレーパンを、優しく挟み込む。  牛肉の入ったこれは、このパン屋さんイチオシの商品だった。  ニコニコと接客スマイルの店員さんに、会計のためにトレーを持っていく。  多分彼は、この量を私一人で一気に食べるとは考えないだろうが、四個もデデンと載ったトレーを差し出すのは、自分が大食らいのようで、妙に恥ずかしかった。  しかし平常心だ。私が平然とさえしていれば、そんなことは気にならな――。  キュルルゥウ。  「あ」  「……?」  セーフだ。まだセーフ。音が小さかったから、店員さんは気付いていない。  不思議そうな顔ながら、彼は商品名を読み上げてレジを押す。  私はその間、顔が真っ赤になっていないことを祈りながら、腹に力を入れた。下手人である、腹の虫を殺すためだった。  グキュルルルル。  「――あ」  ダメだ、これは、流石に無理だ。  「っふ、ふ、っ……!」     
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