あんまり、覚えてない

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あんまり、覚えてない

 模試の結果が、返ってきた。  二つ折りのその紙を見てからの記憶がない。気が付いたら自転車に乗っていて、家を目指していた。  普通なら帰宅しているはずなのに、私はいつの間にか公園で座っていた。しかも何もせず、今もぼんやりと『判定E』という真っ黒な文字を見つめ続けている。  「……あ、忘れてた」  ――今日の晩ご飯は、自分で用意しなければならないのだった。  脳内に居座る『E』を追い払い、必死で冷蔵庫の中身を思い描くが、出来上がった脳内冷蔵庫は、殆ど空っぽだった。  「めんどくさいなぁ……」  はぁ、と吐いたため息が白く濁っていた。  ああ、何もかもが、面倒臭い。そうだ、面倒臭いのだ。結果を見て、これからの勉強を考えるのとか、友達の結果や、成績自慢を聞くのが、面倒臭い。  それでも、ご飯は必要だった。  自転車に鍵を差して、サドルに跨る。もう、本当に、面倒臭い。  「パン屋さん、行くかぁ」  あそこのクリームパンが、無性に食べたかった。朝ご飯に、メロンパンも買っていこう。  ペダルを踏み込むのが何故か上手くできない。必要以上に力を込めながら、全速力で向かう。  突然、自転車を扱ぎながら叫びたくなった。だけどそんなことをしたら変な人だから、我慢して飲み込む。  唇を噛み締めて、お気入りの、暖かくていい匂いのするパン屋さんのことだけを必死で考えていた。  早く、クリームパンを食べたかった。
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