シャンプー

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シャンプー

会長様から荷物が届いたのは春休みが終わってすぐのことだった。 段ボール箱に入っていたのはシャンプーとコンディショナーでなんとなく高そうなボトルに入っていた。 会長様からはメールで、シャンプー送ったから使う様にと連絡は入っていた。慌てて、お礼のメッセージを入れる。既読が付かないという事は大学で忙しいのだろう。 恋人らしきものになって初めての贈り物だ。 嬉しいのだけど何故シャンプーなのだろうと不思議に思う。 何かお返しをするべきだろうとスマホで色々調べるが決まらなかった。 シャンプーのボトルとにらめっこをしてから、結局今日すぐに使うことにする。 風呂の準備をして入る。 髪の毛を濡らして、恐る恐るシャンプーを出す。 いつも使っている物よりも柔らかい気がした。それに一瞬香った匂いに少しだけ思い当たる節がある。 慌てて、髪の毛にシャンプーを塗りたくったけれど、むしろ逆効果だった。 顔の近くで一気に匂いを強く感じられるようになったそれは、会長様の香りだ。 会長様が使っているものと同じものを送ってきたという事にようやく気が付く。 それから、あの人の懐かしい匂いに泣きそうになった。 会いたいとようやく自分で認められる様になったら、匂いだけでこの様だ。 あの人に会いたくて会いたくてたまらない。 会長様が、俺のそばにいた頃には、早くどこかに行ってほしくて、正しい状況に戻って欲しくて仕方が無かったのに、馬鹿みたいだ。 耐えきれなくなってシャワーで一気に泡を流す。 いつもより指通りがいいのは気の所為ではないだろう。 風呂から出て、スマホを確認すると会長様から着信が入っていた。 慌てて電話をすると、すぐに繋がる。 「あの、ありがとうございました。」 「秋月にあうといいんだけど、同じもの使うってちょっと憧れるだろ。」 「……会長様の匂いがしました。」 「もう、会長様じゃないんだけどな。でも、もう使ってくれたんだ。 ああ、そうだな。秋月が俺と同じ香りがしてるって、いいな。」 会長様が笑う気配がした。 もうそれだけで照れなのかなんなのかわからない感情がぶわっと溢れてきて叫び出したい気分になる。 気を紛らわせるために髪の毛をかきあげたら、より一層シャンプーの残り香が強く香って、それだけで顔が赤くなってしまった気がした。 了
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