できそこないの悲劇

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 遥か右斜め下、この建物の南側には視界が途切れるところまで長く続く、白い砂浜が広がっている。近くに目を戻すと、その砂浜を隠すように途中から木々の生い茂る丘が続き、この建物の周りは綺麗にその木々が切り払われている。ここからは建物の反対側で見えないけれど駐車場や庭園も広がっている。この建物は海を少しでも近くに感じようとするように崖のぎりぎりの位置に建っていて、このベランダから落ちたなら、間違いなく海にまっさかさまだろう。切り立った崖の下の海は、どこまでも深い蒼色だ。そして北に目を移せば、また崖と森が広がっている。  その景色をぼんやり眺めていると、部屋の入り口のドアが数回ノックされた。「どうぞ」と声をかけると、予想通り、入ってきたのは安里の御付(おつき)である鷺沢木乃衣(さぎさわこのえ)だった。 「お疲れ様です、久鳥さん」 「どうも」  お互い軽く頭を下げながら、部屋の中央まで歩み寄る。木之衣は部屋の中をぐるりと見渡すと、苦笑いを浮かべた。 「この量を一人で……。大変だったでしょう」 「いえ、俺にできるのはこのくらいのことしかないですから」  花屋の仕事でここに来ているのだから、仕事をするのは当然だ。確かに一人でこの量は大変だったが、必要なことなのだからしょうがない。 「えっと、お嬢様は?」  聞けば、木乃衣はすっと右手を挙げて天井を指差した。どうやらもう大広間に入ったようだ。 「先ほど大広間に入りました。私はこれから旦那様をお呼びに行くところです」 「そうですか」  いよいよ、その時が近づいているのだと実感する。 「それにしても、たくさんのお花ですね」 「ええ、まあできるだけ華やかになるようにとのことだったので。式が始まってからこれを廊下に配置して、式が終わって部屋を出たら見違える景色が広がっている。すごいですよね。     
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