できそこないの悲劇

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「滞りなく進んでおります。あと一時間もすれば水上家の皆様もご到着の予定です」 「ならよい。それで、安里はどこに?」  吉家はゆっくりと腰をあげると、着物の襟を整えながら聞いてくる。 「大広間でお待ちです」 「大広間? 控室ではないのか?」 「はい。どうしても大広間でお話ししたいことがあると」 「……わかった、行こう」  ゆっくりと進む吉家の前を、早くならないように私は歩く。案内するのは安里の待つ大広間だ。  今日はここ美浜環亭(みはまたまきてい)六階の大広間で、結城家の長女安里と水上家の長男公太の結婚式が執り行われる。いつもは様々な催しの会場として使われている美浜環亭も今日は貸切り。式場の準備等も結城家と縁がある業者が務めている。  安里と公太の結婚は、安里が生まれた時からすでに決まっていたことだ。まだ三歳だった私は、その日が来るまでに安里を立派な結城家の長女として育てるために、安里の御付になった。     
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