できそこないの悲劇

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 ――木乃衣。私たち鷺沢家は、ずっと結城家に仕えてきた家柄。あなたはまだ小さくてよく分からないかもしれないけれど、安里お嬢様が生まれたからにはそんなことは言っていられないわ。いい? これからは安里お嬢様のために、あなたはあなたの人生を捧げるの。どんな時でも、あなたは安里お嬢様のために尽くすのよ。  母の言っていることは、正直よく分からないこともあったけれど、一つ確かなことがあった。 それは、母の言う通りにすれば、安里が幸せになるということ。御付になったからというより、安里は私にとって大切な妹のような存在だったし、母が嘘を言うわけもないと思っていたから、私は一生懸命に安里の幸せのために働いた。ずっとそばにいて、いつか水上公太と結婚する時に、立派な女性になっているようにと考えを巡らせていた。  水上公太は私より一つ年下で、安里の御付として私も小さい頃から何度も会っている。名家の長男とあって多少態度が大きいところはあるものの、勉学に優れ、特に経営や経済の方面に強く水上家を継ぐのに申し分のない男性だ。気性が荒いわけでもなく、安里とも最初から仲は良かったと思う。  ただ、一般論として二人が結婚するほどの仲かと言われれば、そんなことはないのだと四年前に思い知った。  二人は仲がいい。が、そこに愛があるのかと言えば、少なくとも安里にそんな感情はなかった。安里は大学に入学してしばらくして本当の愛を知り、そのことで私もそれに気づいた。     
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