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salso
平和だったイタリアの小さな町に、ちょっとした事件が起きた。
事件とは言っても、ごく一部の内輪的な事件だけれど。
日本の小さな食品企業の支社長が行方不明とのこと。
新たな取引先が決まるかどうかという重要な会議を目前に、海外事業部の会議室が大騒ぎになったわけで……。
「いらっしゃい」
入り口で来客を報せるベルが鳴ると、店の主人であるルキノが常連に笑顔を向けた。
客はスーツ姿の男だった。
日本人で、角刈りに精悍な顔つきをした背の高い青年。
彼はひらりと手を振って主人に挨拶を返すと、早速ショーケースを覗く。
ルキノを主人とするこの店は、ボスケット通りに面する小さなジェラート屋「海鳥」。
常に探究心と向上心溢れるルキノは、定期的に新作を店に並べる。
地元民のちょっとした名店。
「今週の新フレーバーは?」
男が尋ねると、ルキノは少しだけ困ったような微妙な笑みになり、肩を竦めた。
「ちょっとタイミングが悪かったな」
主人が投げ掛けた視線の先には……。
「やっぱりな」
男は眉根を寄せて笑う。
狭い店内に、申し訳なさ程度のカウンター席。
そこには一人だけ、ぽつんと座っている人物がいる。
小さい背中だ。
「ハル」
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