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男はハルと呼んだ、まだ幼さを残す青年の隣のスツールに腰を下ろした。
「それ、今週の新フレーバー?」
聞くと、ハルは一つだけ頷く。
白いジェラートを食べているようだ。
時折、鼻をすする。
「美味いか?」
こくん。
再び、一つだけ頷く。
「どんな味?」
「……ルキノさん、今回はちょっと失敗じゃないかな」
ハルの声は僅かに震えて。
「いくらなんでも、しょっぱいよ……」
ぽたりとジェラートに雫が落ちていく。
嗚咽を押し殺し、小さな青年の肩が震える。
「エレナちゃぁん……」
彼女の名前は何度も聞いたことがあるし、何度か顔を合わせたこともある。
小柄で大人しく、誰にでも優しい女性といった印象。
この小さな町で現地スタッフとして雇った青年クラウディオの妹で、職場に兄の弁当を届けている内にハルと仲良くなったらしい。
小柄な二人が並ぶと、まるで小動物が集まったかのように職場の空気が和やかになるのを男は知っている。
恋人なのか友達なのか、二人の関係はまだ微妙で。
詳しい経緯は分からないが、どうやら彼女と何かあったらしい。
「もー、駄目だ。今回こそは嫌われた……」
さめざめと泣きながらも、ジェラートを食べることは忘れない。
「うぅ、しょっぱいよ……」
男は隣で苦笑いしていた。
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