夢破れた男の話

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 一回戦は素人相手で楽に勝てた。しかし二回戦、三回戦と勝ち上がる度に相手も強くなっていき、槍を構える腕に力が入らなくなっていく。古傷がある右腕は使えないので槍を左手で構えていることが功を奏してか、俺はなんとか準決勝まで勝ち上がった。しかし身体は重く腕は痛い。たった7年、されど7年の空白の時間は俺の自慢であった鍛え上げられた肉体を無情にも衰えさせ、自尊心を粉々に打ち砕く。弱音は吐くなよ俺、次はいよいよ優勝候補の警務騎士が相手だ。皇都から派遣されてきた若い警務騎士は当然俺のことを知らないようだった。  赤い旗が振り下ろされたのと同時に俺は馬の腹を拍車で蹴り上げる。  相手の槍が俺の右肩を狙っている。  若い騎士は右手に槍を持っているが、俺は左手に槍を構える。左利きではないが壊した右肩では槍の重さに耐えきれないのだ。向かい合うと同じ側に槍を構えることになるのでやりにくいが、そんなことを言っている場合ではない。  絶対の勝利を、賞金をこの手に。  しかし俺は次の瞬間背中から地面に叩きつけられた。あまりの衝撃に痛いとかそんなもんじゃなくて息ができない。馬のいななきがあたりに響き、ガツガツと蹄鉄で地面を蹴り暴れる振動のそれすらも俺の身体、特に左肩に激痛をもたらす。 「かはっ……がぁっ、うぇっ、ひぃっ……ぇっ」  息をしたいが肺が痙攣したように動かない。誰かが何かを叫んで俺の左肩に触れ、そして俺の意識はなくなった。  ようはあれだ。右肩を狙われているとばかり考えていた俺の裏をかいた相手は、腕をめいいっぱい伸ばして俺の左肩を突いたのだ。俺はそれに対応できずに渾身の突きをもろに食らって馬から落ち、突かれた左肩を脱臼していたということだった。意識のないままに治療が施されたのが幸いして、吐くこともなければ発狂するほどの痛みも味あわずに済んだのは有難い。意識有りの状態で脱臼を治すのは拷問に等しい所業だしな。  しかし最悪なのはここからだった。  俺が気絶している内に試合はすべて終わり、3位まで決まっていた。3位はもちろん俺ではない。準決勝で敗退した俺が戦うべき相手は俺が気絶していたことにより不戦勝として3位に君臨していたのだ。優勝賞金の50万ゼールには及ばないがそれでも10万ゼールはもらえたというのに。みすみす勝利を逃し、ただ呆然としていた俺に手渡されたのは入賞賞金の1万ゼールだけであった。
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