夢破れた男の話

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 皇都で騎士をしていた頃の潔癖なくらいに騎士騎士した生活から解放されて清々しているくらいだ。身なりに気をつけなくてもいいし言葉遣いだって自由だし、好きな時に煙草も吸える。靴に泥がついたくらいで怒られることもない本当にいい仕事だ。事件も何にもない平和な町を巡回して茶を飲んでじいさんとばあさんの世間話に相づちを打ってりゃいいなんて何て易い仕事だろうか。  いや、本当は不満はあるのだ。  騎士に戻りたくないのかと言われれば俺は迷うことなく戻りたいと言うだろう。だがしかし、栄光の時代は大怪我の所為で終わりを告げ、逃げるように生まれ故郷のトット町に戻って来た俺を周りの奴らは腫れ物を扱うかのように遠巻きに見ていた。自警団に入るまではトット町の安い貸し部屋に篭ったきりでろくに太陽の光すら浴びなかった俺は、見る間にだらしない身体のおっさんになったわけだ。まあそんな生活も隣の小綺麗な貸し部屋に住むお節介な女の所為で終わりを告げ、まんまと自警団に就職させられてしまったのだが。  たまにふらりと買い物に行き、煙草と酒とつまみを買い込んでは引き篭もるようにしてずるずるとゆるい生活を続けていた俺の部屋に、煙草臭いから窓を開けるなと突然怒鳴り込んできた女はトット中央商店街に洋裁店を構える30代のおばさんだった。飾り気のない服は自作の服らしいがそれがまたおばさんに拍車をかけており、丸い眼鏡がこれまたダサい。髪はひっつめて俺と同じような目尻の小皺と眉間にある深い縦皺が年齢を物語っている。ガンガンと玄関を叩いていた中肉中背の中年女は俺の姿を一瞥すると煙草を吸うなら窓を開けるなとのたまわれた。煙いから窓を開けるんだろうがと俺が言えば商品が煙草の臭いで駄目になるから弁償しろとまで言う始末だ。 「はいはいわかりましたよ、窓を閉めりゃあいいんだろ? その代わりお前のところも窓を閉めておけよ、平等だ」 「……何よ、その言い方は。見たところ働きもしないでダラダラとだらしないったらありゃしない。この町に住んでるんだったら町の為にくらい働いてみなさいよね。あんた騎士だったんでしょ? 自警団員が年の所為で結構辞めちゃってみんなが困ってるの、知らないわけじゃないわよね? あたしに文句が言いたきゃ働いてからにするんだね!!」 「何だとこのあまっ、てめぇはそんなに偉いのかよ?!」
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