夢破れた男の話

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 あれから6年、俺の贅肉は相変わらずとれることはなく多少出ている腹も引っ込むことはなかったが、元気に自警団員としてやっている。  今も隣のアパルトマンの住人ハンナとも結構うまくやっていて、似たり寄ったりの年齢である商店街の住人ともそこそこ仲が良くなった。ハンナといえば相変わらずお節介で、外食か酒とつまみばかり食っている俺に料理を持ってきてくれる時もあれば、余った布で服を作ってくれる時もある。自分の服はダサいのに他人の服を作るとなるとなかなかに洒落たものに仕上げてくるので俺も結構気に入っている。もらうばかりではあれなので、俺も屋根の修理や店内の改装など力仕事を手伝い、ハンナがアパルトマンで作った商品の服を俺が店に運ぶこともざらである。要するに持ちつ持たれつの関係ってやつで、お互い独り身だったが恋愛関係に発展することはなかった。気がつけば40歳を過ぎ、食うに困らず毎日変わらない生活を送っていれば独りの方が気楽でその生活が至高のものに感じられるから不思議だ。  そんな時、ハンナの洋裁店に暗雲が立ち込めた。  俺はそれをハンナ自身からは聞いていなかったが、自警団の事務室にやってきてはお茶を飲んで帰る近所のご意見番のじいさんばあさんたちが教えてくれたのだ。借金の返済に店の売り上げが追いついていないらしく、このままでは店をたたまなくてはならない深刻な事態らしい。結婚して店を辞めた相方に子供が生まれ、仕送りが途絶えたというのだ。二人で始めた店であり借用書には二人の名前が書いてある為、相方に言ってちゃんと金を送ってもらえばいいのにハンナは変なところでお人好しで甘い部分がある。向こうの都合にお前が合わせる必要はないんだと言いたくなった俺は仕事もそこそこにハンナの洋裁店に向かった。 「あれま、制服で店に来るなんて珍しいじゃないか」 「そんなことはどうでもいい。ハンナ、この店危ないのか?」 「どこでそんなことを……この店は昔っから危ないよ。あんたも知ってるじゃないか」 「ちげーよ、借金はどれくらい残ってるんだ? じいさんたちから聞いたぜ……」 「なんだ、もうそんな噂が回ってるのかい」  ハンナは諦めたように話し出した。
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