夢破れた男の話

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 借金は利息を合わせて残り76万ゼールもあり、このところ……というか2年くらい支払いが滞っていて最後通告を受けたと言うのだ。その最後通告を受けたのは3ヶ月前のことで、ひと月半後までに指定された金額を用意できなければ店を売り払わなくてはならない状況まで追い詰められていた。指定された金額は40万ゼールで、とてもじゃないが片田舎の洋裁店で用意できるものではない。この町の金貸しは1件しかないが、これ以上待てないのだと言われたそうだ。 「40万ゼールってあては……ないんだな。何で俺に相談しなかったんだよ」 「友人にお金の無心なんてできないよ。いいさ、店はたたむよ……潮時だったんだろうね」 「ハンナ、お前は本当にそれでいいのか? 諦めるなんてらしくないぞ」 「一人で商品を作ったって足りないんだよ。こうして裁縫道具とか布生地も売ってるけどさ、やっぱり売り上げは変わらないね」  ハンナはそう言って淋しそうに笑った。  よし、俺が何とかしてやる……などと言えるくらいに蓄えもなく、かと言ってこのまま指を咥えて見ているだけでは男が廃る。騎士を辞める際にもらった退職金を散財してしまったことが悔やまれるが今更嘆いても始まらない。  ハンナはいわば俺が立ち直るきっかけになった恩人であり良き友人だ。かっこつける代わりに俺は無言実行とやらでハンナに隠れて金策をすることにした。ハンナの洋裁店はハンナの夢なのだ。俺の夢は散り散りになってしまったがハンナの夢まで散り散りになる必要なんてどこにもない。受けた恩を返す時がやっと巡ってきたというわけだ。  しかし俺にもあてはない。王都は遠いし、第一昔の知り合いにおめおめと金策なんてできるわけがない。落ちぶれてしまった姿を見られたくないという俺の虚勢の所為で何にも進まず、気がつけばもう時間がなくなってしまっていた。  祭りの話を聞いたのはそんな時だった。ここいらの地方で一番大きな都市であるダーセルで馬上槍試合が開催されるという噂話を聞いた俺は町の新聞屋に駆け込むと真偽を確かめ、それから拳をグッと握り締める。  ダーセル市夏の火祭り  期間:火蜥蜴の月20日から23日まで  催し物:火踊り、歌謡大会、名物トルルン豚のパン粉揚げ早食い大会、馬上槍試合、他
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