夢破れた男の話

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 馬上槍試合なら賞金が出るはずだ。腕に覚えのある連中や警務騎士なんかが参加するのだろうが、それなら俺にだってできる。昔取った杵柄で、腕前も錆び付いているかもしれないがまとまった金を手に入れる好機だ。その記事が掲載されている新聞を買った俺はその足で自分の部屋に帰ると物置から木箱を引きずり出す。この木箱は7年間一度も開けたことはないが中には騎士時代に使用していた剣や帯革、胸当てに編上靴などが詰め込んである。  ゴトッと音を立てて開いた箱の中からはかちかちになった革製品と黄ばんだ衣服、曇ってしまった剣が入っていた。それは7年という歳月を改めて俺に教えてくれる。試しに帯革を腰に着けようとしたが、二回りほどでかくなった俺の腹には短か過ぎた。  しかしそんなことでへこたれる俺ではない。祭りの実行委員に問い合わせると出場条件に制限はなく成人男性であれば誰でも参加でき、装備を持たない者には貸し出してくれるらしい。どんな貧乏人でも体ひとつあればいいというわけだ。しかも優勝賞金は50万ゼールと地方の試合の賞金にしてはかなりの額であり、俺は断然やる気になってきた。  馬上試合の槍は通常安全性を考慮して鋒だけが鉄でできており、持ち手以外はわざと折れやすい木を使っている。怪我をするのは仕方がないが、わざわざ本物の槍を使って死ぬような事態を避ける為なので7年間もご無沙汰していた俺でも扱えるというわけだ。槍以外は自前の装備が可能だったが俺にはそんなものはない。おまけに馬もない。まあなんとかなるだろう。  かくして俺は馬上槍試合に出場することを決め、3日間の休みを取ってダーセルへと向かった。  馬上槍試合は大盛況で街の広場に設置された会場はたくさんの人でごった返しており、出場者たちも腕に覚えがある物たちが数多く見られた。  借り物の防具一式を身に纏った俺は入念に筋肉を解(ほぐ)すと槍を構えて頭の中で過去の試合を再現する。意外と重く感じられた槍に苦戦しつつも精神を統一して勝つことだけを考えた。
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