夢破れた男の話

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 とぼとぼと帰路につき、次の日の昼過ぎにはトット町に帰り着く。  知り合いには何も言わずに出てきていたので出迎えはないと思っていたが、何故か俺の部屋の前でウロウロしていたハンナが血相を変えて駆け寄ってきた。 「マイクっ、その怪我は何だいっ!! 大丈夫なのかい? 酷い青あざじゃないか……」 「ようハンナ。男っぷりがあがっただろ? 見た目より酷くはないんだぜ、これ。治療術も効いてるから一週間くらいで元に戻る」 「そうなのかい……無茶しちゃってさ、新聞屋が「マイクがダーセルの馬上槍試合に出場する」って言いふらしてたの、本当だったんだね。あたしの店の為なんだろ?」 「すまねぇな……結局負けちまったんだよ。カッコ悪りぃな、俺」 「いいんだよ、あたしがもっとしっかりしてなきゃいけなかったんだ……だからあんたの所為じゃないよ。ありがとね、マイク」 「入賞しかできなくてな、これで飯でも食おうぜ」 「あんたのお金じゃないか、いいのかい?」 「これっぽっちじゃ足りねぇからパーっと使っちまうのもありなんじゃねぇか?」  馬上槍試合で怪我したぶん治療の為に余計な出費があり、賞金は半分になってしまったが2人でドンチャンやるくらいはできる。俺はためらうハンナを引きずるようにして町一番の料理屋の扉を開けた。  それから1ヶ月も経たないうちにハンナは洋裁店をたたみ、空き店舗の貼り紙が貼り出されてた。  ハンナは今、市場にある八百屋で店子として働いている。  俺も最悪の事態を回避しようとでき得る限り頑張った。もう恥も外聞も殴り捨てて昔の知り合いに金策に回り、家の中にある金目の物を全部売り払った。しかし世間ってのは冷たいもんであんなに親しかったはずの旧友たちにはにべもなく断わられ、俺の私物も大した金になるはずもなく、とうとう指定期限の日を過ぎてしまったのだ。 「力になれずにすまない……でも部屋を出る必要なんてないだろ?」 「ここの家賃も馬鹿にならないんだから仕方がないよ。それに力になってくれたじゃない……あんなにたくさんのお金、ありがとう。残りの借金を返し終えたらあんたが出してくれた分もちゃんと返すよ」 「俺のはいいんだよ。お前には俺の方が世話になったんだしよ……俺の方こそありがとな」
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