第六章 ロマンスの入口

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「キス・・・してもいい?」 まるで内緒話をするみたいに、彼が耳元で囁いた。 そんなの、答えなんて決まってる。 私は何も言わず、彼の目を見つめ、そして瞳を閉じた。 「セレナ・・・」 ドクン・・・っ ドクン・・・っ 鼓動がまるで早鐘みたいに鳴り響いている。 鼻先に、ルイの吐息が触れる。 「・・・あ」 ルイの動きが止まった。 不思議に思って、彼を見上げると、苦笑いを浮かべて床に転がった男を見ている。 「そう言えば、僕は王子様になるより、先にやることがあったんだった!・・・ちょっと待ってて。」 ルイは、キョトンとした私から手を離して、今まで私を縛り付けていた縄を手に取ると、それを素早く男の身体に巻き付けた。 縄でグルグル巻きにされ、未だにイビキをかいて眠っている男は、まるで蓑虫みたいになった。 「よし、これでいいかな。.・・・彼には外にいて頂こう。」 ルイは蓑虫みたいな男を引き摺ると、あっという間に部屋の外に放り出してしまった。 軽々とルイに引き摺られていくその姿は、ほんの少しだけ同情したくなるくらい滑稽だった。
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