第四章 偽りのプリンセス

4/22
前へ
/201ページ
次へ
一日は、とても穏やかに流れていった。 お母様だけでなく、次姉の莉理愛お姉様も私に優しかった。 お姉様は今、私の代わりにキッチンに立っている。 お料理教室での腕前を披露すると言って、夕食を作るその手つきは、お世辞にもいいとは言えないけれど、楽しそうに料理に励むお姉様が微笑ましかった。 リビングの大きな窓の横にあるソファでは、お母様がパソコンを眺めている。 たぶん、会社の株をチェックしているんだと思う。 いつもならこういう時は口数も少なく、負の感情を叩きつけるようにキーボードを叩いているけど、今日は違う。 時々、莉理愛お姉様と私を交互に眺めては、彫刻のような顔に笑顔を浮かばせている。 とにかく、静かな時間が流れている。 不気味なほど、静かで、穏やかな時間。 そう言えば、優利愛お姉様がいない。 (...何だろう...妙に胸がザワザワする.....。) 私は裏庭に目を向けた。 真紅のバラが、夕陽に照らされて更に赤く見える。 そう言えば、昨日から水をあげていない。 「あの...お母様。」 「なぁに?トレナ。」 パソコンに目を向けたまま、お母様は間延びした声で返事を返した。 「裏のお花たちに水をあげてきてもいいでしょうか...?」 クルリと、お母様がこちらに顔を向けた。 そして、また彫刻のような顔に笑顔を貼り付けて、 「それはいけないわ、トレナ。あなたは私の大切な娘だもの。また攫われてしまっては堪らないわ。」 と言った。 「.....えっ?」 ゾクッと、寒気がした。 背中側で、莉理愛お姉様がクスクスと笑う声が聞こえる。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1410人が本棚に入れています
本棚に追加