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一日は、とても穏やかに流れていった。
お母様だけでなく、次姉の莉理愛お姉様も私に優しかった。
お姉様は今、私の代わりにキッチンに立っている。
お料理教室での腕前を披露すると言って、夕食を作るその手つきは、お世辞にもいいとは言えないけれど、楽しそうに料理に励むお姉様が微笑ましかった。
リビングの大きな窓の横にあるソファでは、お母様がパソコンを眺めている。
たぶん、会社の株をチェックしているんだと思う。
いつもならこういう時は口数も少なく、負の感情を叩きつけるようにキーボードを叩いているけど、今日は違う。
時々、莉理愛お姉様と私を交互に眺めては、彫刻のような顔に笑顔を浮かばせている。
とにかく、静かな時間が流れている。
不気味なほど、静かで、穏やかな時間。
そう言えば、優利愛お姉様がいない。
(...何だろう...妙に胸がザワザワする.....。)
私は裏庭に目を向けた。
真紅のバラが、夕陽に照らされて更に赤く見える。
そう言えば、昨日から水をあげていない。
「あの...お母様。」
「なぁに?トレナ。」
パソコンに目を向けたまま、お母様は間延びした声で返事を返した。
「裏のお花たちに水をあげてきてもいいでしょうか...?」
クルリと、お母様がこちらに顔を向けた。
そして、また彫刻のような顔に笑顔を貼り付けて、
「それはいけないわ、トレナ。あなたは私の大切な娘だもの。また攫われてしまっては堪らないわ。」
と言った。
「.....えっ?」
ゾクッと、寒気がした。
背中側で、莉理愛お姉様がクスクスと笑う声が聞こえる。
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