第四章 偽りのプリンセス

10/22
前へ
/201ページ
次へ
力任せに叩かれているドアは、今にも外れてしまいそうだ。 「お辞めなさい。二人とも。」 お母様の...いや、百合子様の声だ...。 この人の温もりに一瞬でも心を許した自分が恥ずかしい...。 彼女が私に優しくしたのは、私を懐柔したいからに過ぎないと、もっと早く気付くべきだった。 百合子様の声が響くと、突然外が静かになり、コンコンと、ノックの乾いた音がした。 「怖い思いをさせて悪かったわね、トレナ。でもね、私たちにはどうしてもあなたが持っている靴が必要なの。それさえあれば私たちはここを出ていくわ。」 出ていく.....? その言葉に、私は立ち上がって、ドアの方に目を向けた。 まだ、百合子様の言葉は続いている。 「あなたにとって、ここが何より大切な場所だということは知っているから。...ね?悪い条件ではないでしょう?私たちが出ていけば、あなたは本当の家族の思い出に浸って静かに暮らせるんだから。」 そうよ...。 私は別に遺産なんてどうでもいいの。 ただ、お父様と、お母様の思い出を荒らされたくなかっただけ...。 でも、あの靴は...。 もしかしたら瑠依さんが、私の探していた『ルイ』かもしれないのに...。 確かめなくては...。 「百合子様...一つ、教えてください...。」     
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1410人が本棚に入れています
本棚に追加