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力任せに叩かれているドアは、今にも外れてしまいそうだ。
「お辞めなさい。二人とも。」
お母様の...いや、百合子様の声だ...。
この人の温もりに一瞬でも心を許した自分が恥ずかしい...。
彼女が私に優しくしたのは、私を懐柔したいからに過ぎないと、もっと早く気付くべきだった。
百合子様の声が響くと、突然外が静かになり、コンコンと、ノックの乾いた音がした。
「怖い思いをさせて悪かったわね、トレナ。でもね、私たちにはどうしてもあなたが持っている靴が必要なの。それさえあれば私たちはここを出ていくわ。」
出ていく.....?
その言葉に、私は立ち上がって、ドアの方に目を向けた。
まだ、百合子様の言葉は続いている。
「あなたにとって、ここが何より大切な場所だということは知っているから。...ね?悪い条件ではないでしょう?私たちが出ていけば、あなたは本当の家族の思い出に浸って静かに暮らせるんだから。」
そうよ...。
私は別に遺産なんてどうでもいいの。
ただ、お父様と、お母様の思い出を荒らされたくなかっただけ...。
でも、あの靴は...。
もしかしたら瑠依さんが、私の探していた『ルイ』かもしれないのに...。
確かめなくては...。
「百合子様...一つ、教えてください...。」
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