第四章 偽りのプリンセス

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百合子様はそんなお姉様を胸に包み込み、またあの貼り付けたような笑顔を浮かべた。 紅い口紅が怪しく歪んでいるのが恐ろしい。 「そんな風にしてはトレナが可哀想でしょう?」 お姉様の手から、ドレスを抜き取った百合子様が、私の前にしゃがみ込んだ。 「返して...!」 「あぁ、可哀想なトレナール。」 可哀想と言っているのに、その目に哀れみは一切見られない。 「返してください!」 「こんなものがあるから、希望を抱いてしまうのよ。実りのない希望の芽は早めに摘んであげないと、可哀想でしょう?」 ドレスの胴の部分が、メリメリと嫌な音を立て始めた。 「やめて─────っ!! 」 ────ビリビリっ!!ビリビリビリビリっ!! 私の叫び声と一緒に、心の裂ける音がした。
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