第五章 パーティの風景

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「あらあら、そんなにうちのセレナが気になります?...まぁ、無理もございませんわよねぇ。会場中の皆様がうちの娘に釘付けでいらっしゃいますもの!美しい娘に育ってくれて、私も鼻が高いわぁ!!」 違和感の正体が見抜けずに、呆然と彼女を眺めていたら、ミセス・大道寺が声高に笑った。 赤い口紅で彩られた、大きな口に手を当てて笑うその姿は、まるで魔女のようだ。 「この子と、話したいことが山ほどあるのではございませんか?」 ミセス・大道寺は蛇のように身体をくねらせると、絡みつくようにして腕を取り、耳元に口を近付けて囁きを流し込んできた。 「...話したいこと?」 ザワザワと、周りを取り巻く人たちの声が大きくなってきた。 ...彼女のペースに流されてはいけない。 「さぁ、私には何のことだか...」 不審がられないように、眼鏡をかけ直す振りをして視線を外した。 彼女を前にして、勝手に騒ぐ鼓動が耳にうるさい。 しかし、冷静にならなければいけない...。 なぜなら、彼女は『ここにいないはず』なのだから。
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