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これを笑わずにいられようか。
今、目の前にいるこの人に『先日は素敵なペンをプレゼントしてくれてありがとう。』と言えば、どんな顔をするだろうか。
「どうかなさいましたか?」
彼女は首を傾げてにっこりと微笑みかけてきた。
上手く化けたものだな。
違和感の正体がわかった...。
それは、彼女が俺の目を見ても、なんの反応も示さなかったことだ。
本物の彼女なら分かるはずだ。
俺が、瑠衣じゃないことを。
残念ながら、俺はあいつみたいに綺麗なブルーの目じゃないからな。
「すみません。何故か急に秘書の話を思い出したもので。」
勝手に込み上げてくる笑いを打ち消すために、軽く咳払いをして、眼鏡の縁を持ち上げた。
「まぁ!どのようなお話を?」
彼女は、彼女なりに『セレナ』を演じているようだ。
ならば、俺も演じ続けなくてはならない。
王子様が、本物のプリンセスを連れて現れるまで──
「変装の得意なフランスの大泥棒、アルセーヌ・ルパンのことですよ。」
──『セレナ』という、一人の女性の存在を盗み取ろうとしている、母娘との会話を楽しみながらな。
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