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「無理だね。貧民街の人間は、上の街では働けない。貧民街には定職なんてない。人を雇う余裕のあるやつは、ここには来ないからな」
永凛はそう言って、肉まんにかぶりついた。格差社会だなどと嘆くつもりはない。あるやつから奪ってやればいいだけの話だ。ふと、あの姿のいい男が脳裏に蘇った。
「なあ、じいさん。五大家って知ってる?」
永凛の問いに、柳がああ、と答えた。
「精霊使いの中で、力を持つ五家のことだよ」
「精霊、使い?」
永凛は、聞きなれない言葉に首を傾げた。そういえばあの綺麗な男も、精霊がどうとか言っていたな。柳は本をめくりながら、
「陰陽国には気ってものがある。それは天候や災害、国の行く末を知るために必要だ。精霊使いはそれぞれ、気を操って精霊を動かす。精霊を用いれば、雨を降らせることもできる」
永凛は感心した。あのおたまじゃくしもどきに、そんなことができるとは。
「へえ、いいな。精霊とやらが使えたら、スリもらくちんじゃねえか?」
「スリどころか、もし五大家に取り立てられたら、一生食うのに困らない」
「ふーん。五大家って、なんて名前」
「五陽の色からとって、緋、青、黄、白、黒家。長は緋家だ」
柳はそこで言葉を切り、
「とはいえ、黒家は事実上お家断絶だが」
「なんで?」
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