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「さあな。そこまでは知らん。五大家は陰陽山の向こうに住んでいて、お目にかかることはまずない」
「なるほど。誰も顔とか知らないんだ」
柳がこちらをちらっと見た。
「なにか妙なことを考えてないか?」
「妙なことって? 羨ましいなあとしか思ってねえよ」
永凛はそう言って、肉まんにかぶりついた。
翌日、永凛は朝早く起きだし、川に入った。ごみ拾いをするためだ。基本的に、貧民街にごみという概念はない。なんであろうが再利用するのが貧乏人なのだ。
しかし、もっと上流の街ならば別だ。朝靄がかかる中、永凛はぱしゃぱしゃと水を漕ぐ。夏でよかった。冬の早朝にこんなことをするのはごめんだ。
水草に絡まっているがらくたを引き上げ、背中のカゴに入れた。上流の街から、ゴミが流れてくるのだ。中には、なかなかのお宝が混じっていたりする。カゴにたまったものを見て、永凛はにやっと笑った。
「大漁、大漁」
カゴを振ると、カチャカチャ音が鳴った。
★
「よってらっしゃい、みてらっしゃい、緋家の特別な魔除けだよ」
永凛は、ぱんぱん、と手を打ち鳴らした。台には緋毛氈を敷き、「魔除け」を並べてある。
といっても、ただ器が砕けたものにすぎないのだが。川で拾い集めたそれを丁寧に洗い、やすりで丸くする。それに「緋」という文字を書けばできあがりだ。
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