邂逅

9/11
前へ
/167ページ
次へ
ここは上流の街にある市場で、許可を取れば誰でも商売ができる。人々は物珍しげにこちらを見るが、近寄ってはこない。  ──なんだ、緋家の知名度って大したことねえな。永凛が落胆していると、 「緋家?」  男がひとり寄ってきた。肩に酒瓶を担いでいる。盛り上がった筋肉は屈強で、魔除けなどまったく必要なさそうだ。 「はい。どうですか、おひとつ」  男は魔除けをしげしげと見て、 「おめえ、緋家のもんか?」  ちげーよ。内心舌を出しながら、永凛は笑顔を浮かべた。 「はい! 緋永凛です」 「永凛?」  彼がぴく、と肩を揺らす。 「ちなみに俺は、燕蒼華(えんそうか)ってんだ」 「立派なお名前ですねえ」 「聞き覚えねえか」  有名な武人か何かなんだろうか。なんにせよ、こんな男は知らない。永凛は、すいません、勉強不足で、と答えた。 「おかしいな、緋家とはふかーい付き合いなんだが」  彼はそう言って、懐から朱塗りの小さな箱を取り出した。あの箱、見たことがある──永凛がそう思っていたら、蒼華が蓋を開いた。中からにゅっ、と出てきたのは、おたまじゃくしもどき。 「!」 「凛映なら知ってるが、永凛なんてやつは知らねえなあ?」     
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

549人が本棚に入れています
本棚に追加