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ここは上流の街にある市場で、許可を取れば誰でも商売ができる。人々は物珍しげにこちらを見るが、近寄ってはこない。
──なんだ、緋家の知名度って大したことねえな。永凛が落胆していると、
「緋家?」
男がひとり寄ってきた。肩に酒瓶を担いでいる。盛り上がった筋肉は屈強で、魔除けなどまったく必要なさそうだ。
「はい。どうですか、おひとつ」
男は魔除けをしげしげと見て、
「おめえ、緋家のもんか?」
ちげーよ。内心舌を出しながら、永凛は笑顔を浮かべた。
「はい! 緋永凛です」
「永凛?」
彼がぴく、と肩を揺らす。
「ちなみに俺は、燕蒼華(えんそうか)ってんだ」
「立派なお名前ですねえ」
「聞き覚えねえか」
有名な武人か何かなんだろうか。なんにせよ、こんな男は知らない。永凛は、すいません、勉強不足で、と答えた。
「おかしいな、緋家とはふかーい付き合いなんだが」
彼はそう言って、懐から朱塗りの小さな箱を取り出した。あの箱、見たことがある──永凛がそう思っていたら、蒼華が蓋を開いた。中からにゅっ、と出てきたのは、おたまじゃくしもどき。
「!」
「凛映なら知ってるが、永凛なんてやつは知らねえなあ?」
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