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蒼華はそう言って眉をあげる。こいつ、緋家の関係者か……! 永凛は台をひっくり返し、だっ、と走り出した。がしゃん、という音に混じり、悲鳴が聞こえてくる。
「あっ、こら待て!」
男が追いかけてくる気配がする。永凛は全力疾走しながらつぶやいた。
「くそっ、なんで緋家のやつがこんなとこに……」
山の向こうに住んでいるのではなかったのか。永凛は必死に駆けていき、路地に入り込んだ。立てかけてあった竿を倒し、男を妨害する。男は竿をなぎ倒しながら追いかけてきた。
「ひっ」
永凛は思わず悲鳴をあげた。折れた竿を見てぞっとする。なんなんだ、あの男は。まるで猛獣だ。だが足はそう早くない。貧民街に入ってしまえばこっちのものだ。彼は下流の街には足を踏み入れたこともないだろう。
「ちくしょー、捕まえろ、ソウエン!」
男が鋭く叫ぶと、何かがひゅん、と飛んできて、ぬるっと首に巻きついた。
「!」
もがこうとしたら、後ろから押し倒された。
「っ、離せ!」
「よお、足が速いな、緋永凛サマ」
蒼華は永凛にのしかかり、歯を剥いた。食われる……! 永凛は直感的にそう思う。蒼華は永凛を食う──ことはせず、手に精霊を巻きつけ、拘束した。それから、米俵のように担ぎ上げる。じたばたともがくが、まったく敵わない。
「離せ、このクマ!」
「誰がクマだ。俺は名前に華が入ってんだぞぉ」
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