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陰陽
永凛は、陰陽山を歩いていた。いや、正しくは担がれていた。蒼華が背にしょったカゴの中、「魔除け」がカチャカチャと音を立てている。永凛はゆらゆらと上体を揺らしながら、
「おい……わざわざそれ持ってくのか」
「そりゃな。おまえがこんな悪いことをしましたー、って知らせなきゃだろ?」
「名前を借りただけだ。何が悪いんだよ」
青華は呆れた声を出す。
「あのなあ、緋家は利益を生むような行いをしてはならないんだよ。精霊の力は国のために使うものなんだ」
「ふん。俺を捕まえるためとか、くだらないことに使ってるくせに」
「ほんとに生意気だな。あと、ちゃんと風呂入ってるのか? 臭うぞ」
「クマに言われたくない」
「クマじゃねーから! 落とすぞコラァ」
どうでもいい会話をしながら、山道を登っていく。ふと、何かを言い争うような声が聞こえてきた。男たちが掴みあっている。と思ったら、片方が服を裂いて、木に押しつけた。足を抱え、腰を押し付ける。押しつけられた方は、女のような高い声をあげている。永凛は思わず目を泳がせた。
「な、なにしてんだ、あれ……」
「なにって、わからないわけ? そんなに餓鬼か? おまえ」
バカにされたようでむっとする。永凛はもう18だ。彼らがなにをしているかくらいはわかっている。
「わかってるっつの。でも、男同士では普通しないだろ」
「あれは多分、オメガだな」
「オメガ……?」
「知らねえか? 最近めっきり増えてるんだぜ。男だけど、妊娠するんだ」
「妊娠? なんだそれ、気色悪い」
そう言ったら殴られた。
「なにすんだ、クマ!」
永凛が叫ぶと、まぐわっていた二人がびくりとする。蒼華が、大きな手で永凛の口を塞いだ。
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