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彼は女中たちにそう言って、着物を羽織った。その様子に、女中たちが見惚れる。脱衣所を出て行った。女中たちが髪やら身体やら、しまいには下半身まで拭こうとしてくる。永凛は慌てた。
「自分でやるから!」
「おまかせくださいませ」
女中たちはまるで気にしていない様子だ。清明に対する反応とえらく違うではないか。
(俺はなんだ。男じゃねえのか?)
永凛は自分の性について疑問を抱く。オメガだとか妊娠するとか、にわかには信じられないが……。
悶々としていたら、いつの間にか着物を着ていた。真っ赤な襟の着物で、帯は紺だ。いかにも値が張りそうである。女中は深々と頭をさげ、
「お似合いでございます」
「はあ、そう?」
永凛は着物をつまんで、怪訝な顔をした。女中に連れられ、清明の部屋へと向かう。しかしでかい屋敷だ。永凛はそう思う。いったい建てるのにいくらかかったのだろう。廊下を歩いて行き、清明の部屋にたどりつくと、女中が膝を折った。
「失礼いたします」
からりと襖が開く。清明は、長椅子に座ってくつろいでいた。湯上りゆえに髪が濡れていて、それが色香を増している。清明は永凛に視線をやり、ほう、と呟いた。
「見違えたな。泥を落としたらカブだった」
「それは褒めてるのか?」
「カブはうまいだろう」
確かにそうだが。女中は失礼します、と言って部屋を後にした。永凛は辺りを見回す。
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