邂逅

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 ざく、ざく……。何かを掘るような音が聞こえてくる。永凛は、草木の合間から、様子を覗いてみた。男がひとり、木の根元に立っている。彼はスコップを地面に突き立てては、ざくりざくりと土を掘り返していた。 「なにしてんだ? あいつ」  何か埋めているのだろうか? もしかして、盗んだ金とか? 永凛は、地面を見ようと首を伸ばし、はっとした。男が地面から引きずり出したのは、死体だったのだ。この季節に死体を掘り出すなんて、気が狂っているとしか思えない。  ひどい匂いだろうに、男は構わずに死体を検分している。どうやら、ご同業(どろぼう)のようだ。ちらりと男の顔が見えて、永凛はまたもはっとした。  その男は、驚くくらいに綺麗な顔をしていたのだ。すらりとした立ち姿は、彫像のように美しいが、女々しいわけでもない。それなりに膂力のありそうな背中をしているし、背も高い。身なりは質素だが、全身から気品が漂っている。 (すっげえ綺麗な追い剥ぎ……)  永凛は、まじまじと彼を見た。もしかして、没落貴族かなにかだろうか。永凛が身を乗り出すと、足元でぱきりと枝が鳴った。  ハッとしたのもつかの間、彼が振り向く。目が合って、永凛は慌てて立ち上がった。そのまま転がるように走り出す。男が追いかけてくる気配がした。 (大丈夫だ、追いつけやしない)     
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