邂逅

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 永凛は、足の速さに自信があった。なにせ、子供の時からかっぱらいやスリで生きてきたのだ。案の定、男の足音はすぐに聞こえなくなった。永凛は気を良くして、山道を一気に駆け下りようとした。と、いきなり足首がぐん、と引っ張られた。 「!」  足を取られた永凛は、勢いよく地面に倒れる。見ると、足首に何かが巻きついていた。半透明で、わずかに青みがかっている。まるで、おたまじゃくしのなりそこないのようだ。尻尾に似た部分が、ふよふよと揺れていた。 「なんだ、この、離せ!」  永凛は、おたまじゃくしを思い切り叩いた。おたまじゃくしはふにょん、と揺れ、その衝撃を受け流す。そうして、足首をぎりぎりと締め上げてきた。 「いだだだだ」  永凛は悲鳴をあげる。ふよふよのくせに、なんだこの強さは。  痛みに悶絶していたら、ふっと影が落ちた。顔をあげると、先ほどの男がこちらを見下ろしている。永凛は息を飲み、じり、と後ずさった。  近くで目にすると、その男は、本当に人形のような美しさだった。だが同時に、ひどく無表情で不気味でもある。こいつ──ただの追い剥ぎじゃない。そう思って、警戒心を強める。びびっているのを知られたくなくて、永凛は語気を強めた。 「こ、このおたまじゃくし、おまえのか」 「おたまじゃくし? 精霊のことか」 「精霊……?」  なんだ、それは。怪訝な顔をすると、 「知らないのか。五大家の者ではないようだな」     
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