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五大家ってなんだ。そう思っていたら、いきなり財布を奪われた。永凛は、かっとなって手を伸ばす。
「返せ! 俺のだ」
男は、財布の重さを手のひらで確かめた。冷たい眼でこちらを見る。
「不相応な大金だな……おまえ、スリか」
「だったらなんだ。てめえは追い剥ぎだろうが」
「身なりもきたないが、言葉遣いもひどいな」
「はっ、身なりがどうだろうが、どろぼうには変わらねえよ」
「生意気な」
男は永凛を投げ捨てるように放る。地面に倒れた永凛は、彼をきっ、と睨みつけた。男は無関心な眼で永凛を見下ろし、財布を放りなげる。
「エンジ」
男がそう呼びかけると、足に巻きついたおたまじゃくしがほどける。彼は顎をしゃくり、
「さっさと行け」
永凛は財布をぎゅっと抱き、だっ、と走り出した。
陰陽国。それが、永凛が住む国の名だ。四方を山で囲まれており、狭い国土にもまた山がひしめき合っている。なかでも陰陽山と呼ばれる山は、冷厳あらたかな山であると噂され、信仰の対象となっていた。その、信仰の山で盗みを働いた永凛は、山道を転がるように走っていく。
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