邂逅

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 山を下ると、人々が住む扇状地が広がっている。入り口を間違えてはいけない。下流の生まれである永凛は、遠まわりで街へ向かわなければならないのだ。街の門を抜け、ひたすら歩いていくと、周りは永凛と同じく下流の民で溢れかえる。  永凛は財布をしっかり懐に抱えて歩く。盗みをした後は、盗んだ品を誰かに盗られないようにするのが肝要だ。足早に歩いていた永凛は、とある店の前で立ち止まった。 「おじさん、肉まん八つくれ」  そう言うと、店主はぎろりとこちらをにらんだ。 「八つ? 言っとくが値はまけねえぞ」 「金ならあるよ」  永凛は、懐に手を入れた。札を出すと、店主が眉をあげる。 「どこでかっぱらってきた」 「秘密」  にやっと笑うと、店主はふん、と鼻を鳴らした。肉まんを包み、釣り銭をくれる。 「ありがと」  永凛は肉まんが入った袋を抱え、走り出した。  永凛が住む街は、下陽扇(しもようせん)という名だ。陰陽山のふもとに扇型に広がっているため、そう呼ばれていた。 なだらかな傾斜を描く陽扇の地は、扇の持ち手部分から広がっている部分にいくにつれ、貧富の差が開いていく。上から上陽扇(かみようせん)中陽扇(ちゅうようせん)下陽扇(しもようせん)。永凛がすむのは、扇の端、一番貧しい地域だった。     
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