邂逅

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 肉まんを抱えた永凛は、柳揺れる川辺をかけていた。眼下に見えるのは、陽扇を割るように流れている扇川だ。橋の下へと駆け下りていく。頭を下げ、潜り込むと、子供たちが顔をあげた。 「にいちゃん、おかえりなさい」  にいちゃん、と呼ばれているが、実際はみな赤の他人だ。 「ただいま」  彼らはわらわらと凛映の周りに集まって、期待を込めた瞳でこちらをみる。 「ねえ、今日はどうだった?」  永凛はにっ、と笑い、肉まんの袋を掲げた。彼らがわあっと感嘆する。 「取り合うな、一人一個あるから」  袋は、あっという間に空になった。分けておいて良かった。永凛はもうひとつ袋を取り出し、子供たちをかき分ける。 「はい、柳じいさん」  隅の方で、本を読んでいた老人がこちらをみた。永凛が言うのもなんだが、柳はとても目つきが悪い。何百年も生きた老木のような肌をしている、頑固そうな男だ。  今は浮浪者にしか見えないが、おそらく上流の生まれだろう、と永凛は思っていた。子供たちに読み書きを教えたりしているし、色々なことに精通している。 永凛は赤ん坊のころ、この橋の下で柳に拾われた。彼がなぜ橋の下に来たのかは不明だ。詮索する気もない。柳は命の恩人。それで十分だ。 「またかっぱらいか、永凛」 「仕方ねえだろ、日雇いじゃこいつらを養えない」 「定職につけばいい」     
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