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邂逅
陰と陽の交わりは、人の性であり、おのずと生まれ出るもの。しかし、陽と陽が交わること、それすなわち天の意思【Omegaberthー陽性妊娠ー黒隆生・訳】
陰陽山に、蝉の声が鳴りひびいている。永凛は、必死に山道を駆けていた。木々の合間を走り抜けるたびに、ほほをぴっ、と枝がかする。
そのたびに彼の肌には、糸のような赤い線が走っていた。浅黒い肌は、垢じみていて薄汚れて見える。鋭い目つきは、育ちの悪さを物語っている。
ぼろぼろの服は、やせ細った身体には合っていない。
「あー、しっつけーなあいつ。腐るほど金持ってるくせによ」
永凛は木にもたれ、息を吐いた。まあ、ここまでくれば大丈夫だろう。懐から戦利品を取り出し、ひひ、と笑う。
「これだけあれば、しばらく食うのに困らないな」
永凛が手にしていたのは、分厚い財布だった。振っても音がしないくらい、ぱんぱんに中身が詰まっている。にやにやしながら財布を振っていたら、近くで物音がした。永凛ははっとして身をかがめる。あいつが追いついてきたのだろうか?
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