彼の夢

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「……というわけで、猟師に関わる仕事には多くのビジネスチャンスが広がっていることを、みんなにも分かってもらえたことと思う」  会場には多くの人達が来てくれていた。その多くが高校時代の同級生たちだ。  俺は、三十歳を契機に脱サラして、夢であった起業に着手した。そのためにこうして実家のある田舎町へと帰ってきたんだ。  祖父が猟友会に属していたというのもあったが、猟師に目をつけた。害獣対策に乗り出した政府の後押しもあって、今なら補助金も出る。  俺は、全国的にも少ないハンティングスクールを立ち上げたいと思っている。  狩猟免許の所持者は年々減り続けており、今や七十代が半数以上を占めていると言われている。  捉えたイノシシやシカは食肉に加工して卸すことも視野に入れて商売をするつもりだ。  そんな俺の夢をみんなに知ってもらいたくてこの場を設けさせてもらった。感触も悪くない。  講演会が終わり、残りの時間はここで食事をする段取りとなっている。それまでのあいだ、各々が雑談を始めていた。 「お疲れ様、澤口くん。今日はいろいろとお話が聞けて楽しかったわ」  そう言って声をかけてくれたのは、かつて生徒会長を勤めていた徳山だった。その可憐さは当時から折り紙付きだったが、今も美貌に陰りはない。 「こちらこそ助かったよ。徳山がみんなを集めてくれるばかりか、場所まで用意してくれたんだから」 「同じクラスのよしみよ。気にしないで」  男女問わず人気のある徳山の人望は俺の想像をはるかにこえていた。今日集まってくれたのは二十人ほど。休日とはいえ、忙しい合間を縫って遠方から来てくれた人もいる。  徳山は市内有数の規模を誇る寺の娘でもあり、俺の講演会の会場も簡単に用意してくれた。才色兼備どころか、富や名声に地位など、ありとあらゆるものを持っているんじゃないかと思う。 「本当に感謝するよ。でも羅刹女に借りを作っちまったから、後が怖いな」 「もう、その呼び方は止めてよ。今は菩薩を目指してるんです」  徳山は生徒会長時代に、教師すらも恐れおののくほどの辣腕ぶりを発揮したことから、羅刹女(らせつおんな)の異名を持っていた。今の雰囲気ではそうは見えないが。  会場の壁には猟銃を立てかけている。俺としてはさして珍しくもなかったが、他の人間にとってはそうでもないらしい。徳山が、珍しそうにそれを見ていた。
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