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「へえ、これで熊や猪を撃つのね。弾は入っているの?」
「入っているわけないだろ。こうして家から持ってきたのだって法律違反だ。でも、説明するからにはこうして見せたほうがいいと思ってな。」
女帝はぺたぺたと猟銃を触りだした。まるで、赤子が初めて積み木のおもちゃを見た時のようだ。好きにさせておこう。
俺は起業のために身を粉にして働いて、金も貯めた。
だが、融資してくれる人間は今も探している。金は大いに越したことはない。
来てくれた同級生たちには、何人か羽振りの良さそうな奴もいた。俺の夢に一口乗ってくれるやつがいると期待している。
だが一人だけ、明らかに雰囲気の違う奴がいた。
笹垣。あいつだけ生気の抜けた面構えをしていて、顔つきにはどこか幼さが残っている。
あいつ、もしかして働いていないのか? だが、実家は確か診療所だったはず。親が開業医ならば、蓄えもあるんだろう。
そういや、当時はあいつにいろいろと「悪いこと」をしたような覚えもあるが……。
まあ、いいか。あいつをうまくのせて、金を引き出せればこれ以上無いほどの味方になる。適当に声をかけてみるか。
「よお、久しぶり。笹垣だろ?」
「あっ……!!」
うめくような声を発したまま、おどおどと挙動不審な動きをする笹垣。
「どうしたんだよ、落ち着けって。なあ、単刀直入に聞くが、俺の仕事に興味はないか? 融資してくれる人を探しているんだ。軌道に乗ったら倍にして返すからさ。良かったら」「え……ああああっ……!」
笹垣はうめき声を上げたままその場を飛び出していった。
んだよあいつ……。あれじゃ、まともに会話すらできねえじゃねえか。大丈夫かよ?
しかし、笹垣は俺の想像をはるかに超える行動を取った。
笹垣が、いつの間にか壁に立てかけてあった猟銃を手に取っていた。その切っ先を、俺に向けている。
「こっ、こっこ殺してやる……!」
……はあ? なに言ってんだこいつ。その猟銃には弾なんて入っていないんだぞ。知らないのか?
「ずっとずっと、その日を待ち望んでいたんだ! 今日こそが、僕の夢を叶える日なんだ!」
けれど、本人は大真面目のようだった。笑いそうだよこっちは。
「がああああっ!」
笹垣が吠える声とともに。けたたましい音が鳴り響いた。俺の足元には、弾痕があった。
参加者たちが悲鳴をあげる。
「まだあと一発残っている。僕は本気だ!」
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