娘のお気に入り

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「ねぇねぇ、これ可愛い!」 ほのかが私の袖を引っ張って行った先にはハート型のペンダントが飾られていた。蛍光灯の光を反射して七色に光るペンダント。4歳のほのかにとっては、きっと宝物のように見えるのだろう。 「ねぇパパ、これ買ってよぉ~」 ほのかは上目遣いで私の方を向く。その目線は私の弱点を見透かしているようだ。 商店街の中に佇むこの雑貨屋はほのかの大のお気に入りの店。キラキラと光るアクセサリーは勿論のこと、コースターのような小物、時計、写真立てなどかなりオシャレな物が揃っている。しかも値段も手頃で、ほのかにねだられたペンダントは250円。この絶妙な価格設定もほのかのおねだりを後押ししてくる。 「しょうがないなぁ。買ってあげよう」 「わーい。ありがとう!」 ほのかは満面の笑みを浮かべて歓声を挙げた。 私はペンダントを手にとってレジに向かい、250円を支払う。その時、高さ1m30cmくらいのひときわ輝くツリーに目を奪われた。 「これは?」 私が聞くと、若い女性の店員が答える。 「クリスマスツリーですよ。暗いところでライトアップすると、とても幻想的な光り方をします」 「ねぇパパ、これ買ってよ」 ほのかのおねだり攻撃がまた始まった。そのとき、女性の店員がかがんでほのかに言った。 「ごめんね。このツリーはすでに他の人に貸してあげる約束をしちゃってるんだ」 「なーんだ。がっかり」 ほのかはしょんぼりとしている。無理もない。この店の中ですらかなり綺麗な七色の光を放っているのだ。暗い中でライトアップしたらもっと素敵な輝き方をするのは想像に難くなかった。 「しかし、このクリスマスツリー、珍しい素材をお使いなんでしょうね」 私は店員に尋ねる。 「いえ、ありふれた材料を元に作っていますよ。何かは企業秘密ですが。ちなみにその材料、この店で売っている品物全てに使っているんです」 「ということは、この七色のペンダントにも使っているんですか?」 「ええ。そうですね」 店員はにこやかに答えた。 「パパ、お腹すいた」 ほのかが私のズボンをくいくいと引っ張る。 「分かった。そろそろ行こうか」 私は店員にお辞儀をすると、ほのかのお気に入りの店をあとにした。
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