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ナナイロ・ツリー
「ねぇパパ。これ買って」
今日も私はほのかのおねだり攻撃を受ける。今日ほのかが欲しがっているのは写真立て。まわりに施されたキラキラ光る装飾が気に入ったらしい。価格は350円だ。昼飯をワンコインで済ませる安月給サラリーマンである私。その懐に響くか響かないか微妙なラインの価格設定なのが憎らしい。
「仕方ないなぁ」
そう言うと私はレジへ行き、写真立てを購入する。
「ありがとうございました」
女性の店員はそう言って袋を手渡してきた。この間と同じ店員だ。
「ねぇパパ。今日もツリーあるよ」
「ホントだ」
私はそう言ってほのかとツリーを眺める。
「娘さん、このツリーを随分お気に召されたようですね」
女性の店員が声をかけてきた。
「ええ。キラキラしたものが大好きでね。だから娘のお気に入りなんですよ。ここは」
私は笑顔で答えた。
「ありがとうございます」
女性も笑顔で返す。
「ねぇねぇ見て。これ何?」
ほのかは下側にあるツリーの葉の部分の裏側を指差している。そこには「c」の文字が書かれていた。
「これはシーって読むんだ。英語教室で教えてもらえるよ」
「ふーん。なんでシーって書いてあるの?パパ」
来てしまった。葵が答えられなかった質問が。私もこの謎について考えていたのだが、明快な答えは見つけられていない。
「何でだろうなぁ」
私はそう答える。他の部分も見てみるが、アルファベットが書いてある箇所は見当たらない。アルファベットが書いてあるものの方がどうも圧倒的少数なようだ。
私はたまらず店員に尋ねた。
「店員さん。ここの商品にはたまーにdとかcとか文字が書いてあるみたいなんですけど。これは何ですか?」
「それは企業秘密ですので」
店員はまたもやニッコリと、そして毅然とした態度で回答を拒んだ。
「パパ、おうち帰ってアニメ見たい」
ほのかが上目遣いでそう言った。私は謎が解けず釈然としない気持ちを抱えながら、
「そうだね、帰ろうか」
そう言って店をあとにした。
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