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ガチ勢
「じゃ、頼むよ」
「ありがとうございます」
斎藤は店員に段ボールを手渡すと、走行距離13万キロで買った中古の軽自動車に乗り込んだ。
「しかし、180枚もよく引き取ってくれるね」
助手席の田代が運転席の斎藤に言った。
「ああ、四畳半の一室だと置き場所に困るから助かるな。中古屋だと盗品売買防止のためとか言って1枚しか買い取ってくれないんだよ」
斎藤は安堵の表情でそう言った。
斎藤が持ってきたのはBLC64のシングルCD。180枚すべて同じものである。
「しかし斎藤はホント好きだねぇ。田辺繭香のこと。総選挙の票のためだけに182枚もCD買うんだからな」
田代がからかい半分に言うと、
「田代、何度言ったらわかるんだよ。呼び捨てするなよ。まゆかりんと言え」
斎藤はアクセルを踏みながら不機嫌そうに言う。
「しかしさぁ、わざわざどうしてこんな雑貨屋に持ってくるんだよ。こんな大量のCD」
田代が疑問をぶつける。
「だって俺が住んでる所、ゴミの分別厳しくて捨てられねえんだもん。ただでさえこんな大量なんだぞ」
斎藤が言うことはもっともである。CDはパッケージ、ケース、本体と三種類のパーツがある上、どのゴミに分別するのかわかりづらい。この上捨てる量が大量なら、面倒臭さは倍増である。
「近所のゴミ捨て場がダメだったら、こんな大量なCD、ほかにどこに捨てればいい?」
斎藤は田代に尋ねた。
「……山奥に捨てるとか?」
「ダメだよ。ダメダメ」
斎藤はハンドルを握りながら田代の答えを即座に否定した。
「知らない?山奥にCD500枚くらい捨てて捕まった人の話。あれ、不法投棄っていう立派な犯罪だからね。だから、タダで引き取ってくれるあの店に持っていくのが一番なんだよ。聴くために1枚、飾るために1枚。残りは票だけ抜き取って、ガラクタは好きに使ってもらうのさ。そういう意味ではあの店はお得意様であり、俺のお気に入りってわけだな」
斎藤と田代は自宅の駐車場へとたどり着いた。車を降りると、田代は斎藤の足元をチラッと見て言った。
「どうでもいいけどお前さぁ、もう少しマシな靴履いたら?CD5枚も我慢すればまともなスニーカーの一足くらい買えるんじゃないか?」
斎藤は田代の苦言に対し首を横に振り、
「俺はガチ勢だからな。惜しまない所ともったいないと思う所を心得た金の使い方をしているんだよ」
と、斎藤は自信満々の顔で言い切った。
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