0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
偽りの楽園
「そこで何をしている」
夜も明けぬ暗がりの中。
“キング”が住まうという施設に忍び込んだ俺はやっとの事で檻を掻い潜り、餌場に手を伸ばした瞬間。澄んだバリトンの声がそれを叱責した。
「あ……」
俺はその声に背筋から血の気がサーっと引いていくのを感じ、しばし硬直すると、少年は壊れた人形の様にぎこちない仕草で振り返った。
するとそこには、縦長の窓から差し込む月明かりに爛々と光る二つ瞳が、仰臥したまま身体を横にして、頬に手を当てた状態で俺を見ていた。
「お前、ここで一体何をしている? ここが何処だと思っている」
その尋ねる言葉にさっきの叱責の硬い空気は無く、今度は逆に気だるげな雰囲気を感じた。
しかし俺は瞬時に地に伏すと、平謝りする。
「す、すみません! 冬の寒さに耐えかねて、近くにあったここについ……! それにキングの食べ物ってどんな味なのかなんか、すごく興味が湧いてしまって!」
俺は瞳をギュッと瞑り、額を地面に擦りつけてキングの反応を待った。
最初のコメントを投稿しよう!