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朝になると床から起き上がって顔を洗い、パンを齧りながら既にゲージの中で起きていたポテにごはんをあげた。
「おはよーごはんだぞー」
「ワン!」
コーヒーを飲みながら、小さなしっぽ振ってごはんを食べるポテを眺める。
……至福の時だ。
しかし今日は後ろでモゾモゾと動く音が聞こえた。
見ると満がベッドの上で起き上がっていた。
「……俺もごはん」
「…………」
俺とポテは黒髪にボサボサの寝癖を付けてあくびをする満を見つめた。
ポテを抱っこして散歩のために家を出ると、満も愚痴りながらついてきた。
「なんでこんな朝早いんだよ」
(嫌ならついて来なくてもいいのに……)
「しかもお前はなんで抱っこされてるんだよ。犬のくせにっ」
満がポテの頭を触ろうとしたので避けた。
「もうお前自分の家に帰れよ! 酔いは冷めただろ!」
「こんな格好で帰れるわけないだろうが!」
満は勝手に俺のスウェットを着ていた。丈が合わないのでダボダボである。
そんな格好をしているのを見ると前の関係に戻ったみたいで不思議な感覚に陥ったが、それを頭から振り払うために早歩きをした。
満はあくびしながらゆっくりついてきた。
ポテを河原で遊ばせているとようやく満が到着し、俺の隣にしゃがんだ。
「なぁ、なんであいつポテって名前なの?」
地面を跳ねるように歩くポテを見ながら満が聞いた。
「別にいいだろ」
「……ふーん」
満が不満そうな声を出しながら俺の肩に頭を乗せた。
「やめろよ」
肩を動かしたが満は動じない。
「俺はまだ別れたつもりないから。お前が勝手にいなくなったんだ」
「ケンカしただろ……」
「でも俺のことが嫌いになったわけじゃないだろ? 嫌いになっていなくなったわけじゃないよな?」
満がうるうるとした黒目がちな瞳で俺を見つめた。
距離が近すぎる……。
「…………」
思わず満の目に吸い込まれて、唇が満の唇に微かに触れた。
「ワン!」
いつの間にかポテが足元に来ていた。
「どうした? もう散歩いいのか?」
俺がポテを撫でると隣からチッという舌打ちが聞こえた。
散歩帰りに俺とポテはコンビニの前で待ち、満に金を渡して昼食を買ってきてもらった。
家に帰ると満はまたベッドに寝転がりスマホをいじり始めた。ダボダボのスウェットが捲り上がり腹が見えている。
「まさかお前、夜までここにいるつもりか? 俺はお前とはもう寝るつもりないからな」
「…………」
宣言してやったが満は冷たい視線で俺を見ただけだった。
案の定、満は夜までうちにいた。
そして案の定、俺の上に乗っていた。
ダボダボのスウェットのままでベッドに座る俺の上に乗り、俺の顔を両手で包みキスをしている。
「……俺とお前が一緒にいてしないわけないだろ?」
固くなった満の股間が腹に当たっていた。スウェット越しに伝わる感触で俺を煽る。
「なぁ、お前最近、誰かとした?」
「……してないよ」
満が囁いた。
「俺も」
満に抱きつかれた。
手が勝手にスウェットの中に入り、直に満の背中に触れ、固くしまった肉と背骨を撫でる。
三ヶ月ぶりのその感触は新鮮に感じた。
理性が持ち堪えられなくなった俺は満を押し倒した。
そして立ち上がり、雑多に物を詰め込んだチェストの引き出しからゴムを取り出し、満の元へ戻った。
「……今日だけだからな」
顔の横のシーツを掴んだ満が俺を見上げ、ニヤリと笑った。
「それはお前の理性しだいだな」
夜中に目が覚めると、横に寝ているはずの満がいなかった。
目を動かして探すと、下だけスウェットを履いた満が床に眠るポテをそっと撫でていた。カーテンから差し込む月明かりが、その姿が浮かび上がらせている。
三年付き合った俺は知っている。
満は本当は、寂しがりやで、甘えん坊で、そしてまっすぐで、がむしゃらなんだ。
俺だけがそれを知っている。
だから心配なんだ。
満に気づかれないように、そっとその姿を見ていた。
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