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「先輩、坂本課長と何かありました?」
隣の席の山田に突然聞かれた。
「いや、なんで?」
「なんとなく……、最近の坂本課長、やけに機嫌良くないですか?」
勘の良い山田は気付いてしまったらしい。
満の俺に対する態度が柔らかくなったことに。
結局満は土曜と日曜うちに泊まり、俺はまんまと二日間とも満と寝てしまったからだ。俺の理性などそんなもんなのだ……。
でもまだよりを戻したわけじゃない。
俺が欲しいのは二人でゆっくりと過ごせる時間だから。
水曜の夜、家に帰って食事とシャワーを終え、ポテと遊んでいると誰かがやってきた。
ドアを開けるとやっぱりまだスーツ姿の満だった。
疲れた様子なので仕方なく家に入れてやった。
「お前さ、働きすぎじゃない? お前がそんなんだと俺がやる気ないみたいに見えちゃうだろ?」
「実際お前はやる気ないだろ?」
家に上がるなり満はポテを抱き上げた。
ポテを撫でながらこっちを振り返った顔からは疲れが消えていた。ポテも心なしか満に撫でられて嬉しそうに見える。
「…………」
「安心しろよ。残業代はちゃんと貰ってるから」
「そういう事じゃない」
ポテを床に下ろした満がベッドに移動し、どさっと倒れた。ポテもその足元に移動する。
完全に懐いている……。
「俺はお前が心配なんだよ」
満がベッドの上でネクタイを外した。疲れた顔に戻っている。
「たまには定時で帰れよ」
「そんなの、今の俺の立場じゃ無理なのわかるだろ?」
満が微かに笑いながらネクタイを床に落とした。
「……なぁ、俺たち別れたはずだよな?」
「……おまえが勝手に言ってるだけだ」
落としたのネクタイを拾ってやり、別れの理由を口にした。
「俺はおまえのそういう自分勝手なところが嫌いだったんだよ」
「…………」
上を向いていた満の体が横向きになった。
眠そうな顔をしている。今にも瞼がくっつきそうだ。
「あっ! ちょ、ちょっと待ってっ!」
慌てて冷蔵庫を開け、満のために作っておいたサンドイッチを出して、ベッドの横のテーブルに置いた。
しかし、満はすでにスヤスヤと眠っていた。
「…………」
べッドに座り、満の寝顔を眺めた。
満は平気で食事をおろそかにする。自分の健康を過信しているんだ。本当はもう少し太ったほうが良いはずなのに……。
俺がため息をつくと、ポテがつぶらな瞳で俺を見上げた。
俺の足の周りをトテトテと歩くポテも心なしか心配そうに見える。
そんなポテの頭をそっと撫でた。
「どうしたらわかってくれるんだろうな?」
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